【目的と手段を間違えないで】とある農夫の話

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あるところに貧しい農家の男がいた。
男はいくつもの作物を育てていたが、どの年も予め決まっているかのように出来が悪かった。なぜか彼の畑から生まれる作物は形が不揃いで、大きすぎたり、ねじれていたりした。原因は男にも分からないが、とにかく市場では売り物にならないようなものばかりだった。

さらに男は天候にも拒絶されているように感じることがあった。ある年は野生の動物に荒らされ、ある年は焼きつけるような炎天下が続き、またある年には2週間も降り止まない雨に苦しめられた。

それでも彼は農家という仕事をやめようとは思わなかった。
作物が大好きだったからである。
たったそれだけの理由、しかしそれ故に男は農家という仕事にやりがいと誇りを感じていた。

形こそ不揃いだが彼の作る作物はどれも美味しかったので、村の住人からは評判だった。
それもまた彼が作物をつくりつづける動機の1つだった。

ある日いつものように市場へ作物を売りに行った帰り道、顔馴染みの商人から興味深い噂話を聞いた。

その商人によると、遠く離れた東の国には、どんな悪天候にも負けず、形もつねに均一で出来上がり、しかも味も抜群に良い作物があるという事だった。
また、その作物のタネが非常に不思議な形をしているそうだ。

にわかには信じがたい話だったが、商人が嘘をついているようにはおもえなかった。

数年後、彼はとある旅の途中で小さなタネを拾った。
それは今まで見たことがない、不思議な形をしたタネだった。
もしかして、かつて商人が話していたタネではないだろうか?
想像すると少し胸が踊った。
旅が終わり、故郷に帰ったらタネを育てようとおもった。

男はこれから歩む道にも、同じようなタネが落ちていないか、視線を落として探すようになった。

旅を続けていくうちに、最初見かけたような、見たことがない珍しいタネをいつくか拾うことが出来た。
どれも今まで見たことがない代物だった。
ところが何故だろう、初めてあのタネを拾った時のような感動は無かった。
確かに多少の高揚感はあったが、すぐにこんなことを考えてしまった。
『もっと不思議なタネはないだろうか?』

けっきょく男は生涯をかけて特別なタネを探し続けてしまう事に気づきはしなかった。

最初に拾った不思議な形をしたタネは、すでに枯れて萎みどこにでもあるようなタネになっていた。

ある日、カバンの中に集めたタネが一杯入っていることが嫌になった。

男はカバンごと燃やしてしまった後、こう呟いた。

『私が欲しかったのは珍しいタネではなかった』

彼が欲しかったのはタネそのものではなく、タネからできる作物だった。

 

目的と手段を見誤ると取り返しがつかなくなる、そんな話。

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